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「・・・理解に苦しむな。そうして己の猫を偏愛し、周囲の人間の迷惑を顧みない輩の、なんと多いことか」
男が棘のある口調でつぶやく。
その言葉に、とても意味深なものを感じて
「あんた・・・召喚師に何か、個人的な恨みでもあるのか?」
そう言った瞬間、顔面に衝撃が走った。
視界が暗転し、目の端に星が飛ぶ。
口の中に鉄の味が広がって、自分が殴られたのだとわかった。
「・・・ははっ・・・図星なんだ」
「黙れ」
空気の緊迫する音が耳に聞こえるかのようだ。
男の口元からは、あの傲慢な笑みが消えていた。
そのままだったら、まさに一触即発の状態になっていただろう。
――その時。
「副長!大変です!!」
塔の階段を駆け上がって来た若い男が、青醒めた顔で異変を告げに来た。
「どうした。キャット団が動いたのか?」
「い、いいえ、そちらではありません!エリュシオン同盟の者達の襲撃です!」
「なんだと!?こんな時期にか!!」
事態はどうやら、風雲急を告げる、に移行したらしい。
あと、この髭の男、ここの副長だったのか。
長くないな、ここの組織。
僕がそんなことを考えていると、口髭鎧がこちらへ向き直った。
「おい、貴様。事情が変わった。貴様の件は後回しにする。さっさと先ほどの部屋へ戻って――」
男が最後まで言うことができなかったのか。
それとも、僕が最後まで聞くことができなかったのか。
突如、凄まじい轟音と衝撃に、空気と足元が震撼した。
「―――っ!!」
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