救いの手

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咄嗟に、横の壁に手をついて、なんとか体のバランスを保つ。 口を悲鳴の形に開けながら、階段を転がり落ちて行く男の姿が、視界の端に移った。 同情する気にはならなかった。 自分もそれ所じゃない。 次の瞬間には、爆発に似た衝撃が、自分の頭上を並行に通過して行ったから。 砕かれた石壁から、粉塵が舞い上がった。 砂礫が雨のように、僕の体に降り注ぐ。 白くけぶった空気に、視界と呼吸を奪われて、涙と咳に襲われた。 どうやら、今自分が立っている場所より上の部分を、外部からの力でごっそり破壊されたらしい。 顔をかばいながら周囲を確認すると、整然とした塔は、荒く削った瓦礫の山と化していた。 ついさっきまで密閉されていたはずの空間に、夕暮れの空が広がっているのが見える。 い、一体何が起きたんだ。 考える暇もなく、周囲が、ふっ、と暗くなった。 粉塵と石礫の次は、巨大な闇が落ちてくる。 仰ぎ見れば、破壊されたはずの石壁が、再び形を取って覆い被さってきていた。 並行した石柱郡が、まるで意思を持っているかのように自律しながら。 ――いや、違う。壁じゃな い。 これは、石でできた、巨大な手・・・? そう思った瞬間、硬い石柱が体に巻きついてきた。 いや、巨大な手で鷲掴みにされた、というのが正しいのかも知れない。 そのまま、乱暴に持ち上げられた。 「うわああああっ!」 心もとない浮遊感に情けない悲鳴を上げながら、僕はどうすることもできなかった。
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