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剣戟と爆音。
怒号と悲鳴。
そんな声を遠くに聞きながら、僕達は走った。
取り戻した魔法力は、それぞれのパートナーの居場所を教えてくれる。
僕達はただ、魂の気配を辿っていけば良かった。
だが・・・存在する力がひどく弱まっているのがわかる。
他の二人も口にはしなかったが、曇った表情が雄弁に物語っている。
動悸が激しいのは、全力で走っているからばかりじゃなかった。
やがて辿り着いたのは、広さだけは十分な地下の一室だった。
部屋というより、百単位の人間が会議でもできそうな、広大なホールの様相を呈している。
永久照明でも灯してあるのか、入り口付近は十分な明るさがあった。
そして僕達は、まるでチェスの駒のように、整然と並んだ3体の人影を目のあたりにすることになる 。
「マオ!」
「アルト!」
「ブランシュ!」
ほぼ同時に、僕らは相棒の名を叫んで
「うなっ!」
「うにゃん!」
「みゃあん!」
呼ばれた彼らは一斉にこちらを振り返った。
金色の目をした、凛々しい顔立ちの黒猫が、腕を広げたセアラの胸に飛び込んでくる。
カイ種と呼ばれる、格闘属性の召喚獣だ。
一方で、上品なドレスに身を包んだ貴族令嬢のような白猫が、やはり優雅な足取りでアスタユルに歩み寄る。
つぶらな青い瞳で顔を見上げ、彼のローブの裾をしっかりと握った。
クイーン種と呼ばれる、恩恵付与の召喚獣だ。
セアラは半泣きになりながらカイを抱き締め、アスタユルは黙ってクイーンの頭を撫でた。
召喚獣を見るだけでも、二人が自分より高位の召喚師だということがわかる。
でも、今はそんなことはどうでも良かった。
僕の目の前には、マオがいる。
帳色の大きな瞳で、僕を見つめている。
乱暴に扱われたせいなのか、身に着けた着衣の肩紐が、片方外れていた。
「おいで。マオ」
一歩前に踏み出しながら、少しかがんで両手を差し出す。
マオは瞳を輝かせながら、僕に向かって駆けて来た。
大きな丸い手で、僕の手を包むように握って――。
がぶり。
そのまま、噛み付かれた。
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