70人が本棚に入れています
本棚に追加
突然、風が啼いた。
稲妻のような炸裂音が、場を震撼させる。
それは広大な地下空間に反響し、重なり合う。
闇が蠢き、そこから生まれ出たかのように、不気味な影が姿を現した。
それは漆黒の、ブヨブヨとしたゼリー状の塊。
人間が一人、丸ごと入れそうな大きさの、闇色の卵。
そこから、人間の腕ほどあろうかという、太い触手が無数に生えていた。
果たして、触れたらどんな感覚なのか。
表面は嫌らしく、てらてらと輝いているのが、一層不気味さを増していた。
黒い触手は、それぞれに律動を繰り返している。
空を切る音。
地を叩く音。
床を這いずる無数のそれが、不協和音を奏でる。
「なんだ、アレは・・・」
アスタユルが呻いたが、僕はその顔を見ることすらできなかった。
重力に逆らえなくなって、次第に体が沈みこむ。
膝立ちだけでは体を支えられなくって、手を付き、四つん這いになり、それさえも辛くて岩のようにうずくまった。
全身が鉛になっていくみたいだ。
「危ないっ!!」
セアラが悲鳴をあげた。
次いで、湿った物を切り裂くような、嫌な音。
ふぎゃおう、と、マオの威嚇の声がして、目の前に触手の先端が落ちてきた。
僕に向かって伸びて来た触手を、鋭い爪で切り落としてくれたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!