地下で蠢くもの

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「ブランシュ!ギフト!」 「みゃお」 アスタユルの号令に、白猫が短く応えた。 手にした羽扇子を広げ、ふわりと扇がせる。 まるで歌う貴婦人のように、優雅に。 僕の体にわずかだが力が戻り、マオの体にも可視の光が宿った。 ブランシュが手首を返す度、魔法の祝福の輝きが辺りに満ちていった。 「アルト!アルティメットディフェンス!」 「にゃぐ」 セアラの号令が響いて、黒猫は小さく鳴いた。 滑るように僕の前に踊り出ると、両手を交差し、ガードの構えを取る。 そこへ、雨のように無数の触手の洗礼が降り注いだ。 だが、ひとつとして、黒猫の肌に傷ひとつ付けられない。 後ずさりすらさせられない。 黒い毛皮が淡い燐光に包まれ、まるで光の殻でも被っているかのようだ。 ことごとく、その輝きに弾かれて、触手は少しひるんだように見えた。 「ブレッシング!」 アスタユルの号令が重なる。 貴婦人猫は、手首を返して、今度は逆向きに扇子を扇がせた。 空気が清浄な香りを放ち、別の輝きが周囲を包む。 光の粒が舞い降りて、第二の祝福に全身が包まれた。 ずっと防御に徹していた黒猫の体にも、優しい輝きが満ちていく。 その合間、アスタユルはパートナを守るように、時折炎の魔法で触手を焼き払っていた。 「カウンター!」 セアラの号令がそれに重なる。 黒猫は一瞬の隙をついて防御を解くと、一気に攻めに転じた。 音ひとつ響かせずに、跳躍と着地を繰り返す。 まるで空中に舞う踊り子のように、軽やかに。 正確に触手の正面に躍り出て、ある時は爪で弾き、ある時は回し蹴りを放った。 アルトが踊る度に、触手は形を失っていき、その数を減らしていった。
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