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男が抜き身の剣を振り下ろ
す。
そのタイミングで、傍にあったテーブルの足を蹴り飛ばした。
上に乗っていた一輪挿しが、水をぶちまけながら円を描くように転がる。
てっきり魔法が飛んでくると思っていた相手は、不意をつかれたのだろう。
ガードする間もなく、床を滑ったテーブルが腹に一撃を与えた。
体勢を崩したその脇に、手中に収束した魔法を叩き込んでやる。
「・・・ぐっ!」
銀色の輝きが放射状に弾けて、きらめきを残して一瞬で消えた。
詠唱無しで唱えられる、無属性の魔法だ。
威力は弱い。致命傷にはならないだろう。
魔法を打ち込んだ返す手で、横倒しの一輪挿しを鷲掴む。
それを、今まさに詠唱を完成させようとしている女に向かって投げつけた。
ガラスでできた花瓶は、鈍い音をたてて女の右肩に命中し、床に落ちて砕ける。
「あぅっ!」
ひきつった悲鳴を上げて、彼女を取り巻く可視の力が霧散していった。
ダークエルフの詠唱の遅さに助けられたなと思う。
そのまま脱兎の如く駆け出して、扉を開けた。
そこで、僕が目にした光景は――。
「うにゃああああん!!」
「マオ!」
2人の兵士に両側から吊るし上げられて、短い手足をバタバタさせて抵抗する、白猫の姿をした魔法界の精霊。
僕が契約し、マオと名付けた召喚獣が、嫌がって泣き叫ぶ姿だった。
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