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「やめろ、その子に触るな!」
うかつだった。知り合いの家に使いに出していた所だったのに。
よりにもよって、このタイミングで戻ってきていたなんて。
「汝、あるべき世界に・・・」
咄嗟に、送還の呪文を唱える。
今は魔法界に戻すしかない。
だが、詠唱の途中で、突然、僕は声を失った。
「・・・・、・・・・、・・・・!!」
口が重い。舌が張り付く。
喉からは、乾いた空気だけが虚しく漏れる。
嫌な汗が噴き出して、額をじっとりと湿らせた。
やられた・・・沈黙の魔法か。
「やってくれたわね・・・アンタも、アンタの猫も、絶対に逃がさないから」
背後からの声に振り返ると、肩を押さえながらこちらをねめつけてくる女の姿。
そして、怒りに目の光を滾らせながら、大股に歩み寄って来る鎧の男が目に映った。
前と後ろ。
視線を交互に走らせながら、こめかみに冷たい汗が伝うのを感じる。
どうする。
どうしたらいい。
視界の端で、マオが大きな麻袋に入れられて、縛り上げられていくのが見える。
それを目にした瞬間、頭に血が上って、全ての思考が霧散した。
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