愁いの姫君

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. 香田は海堂の腕に抱かれて頭をガクリと後ろに落とした少年の姿に生きているとも死んでいるとも判断がつかなかった。 ただ… 蒼白なまでの白い顔。綺麗に弧を作る柳眉に堅く閉じられた瞼から長く頬に影を落とす睫や、アーチを描く白い首のラインがこの世のものとは思われぬ程に美しいと思った。 薄く開いた唇は所々血を滲ませ紅く染まっている。 殴られたのか、唇の端が切れ周囲が赤黒く腫れていた。 (確かまだ高校生だったはず…) 部屋の施錠を確認すると車までの道程を海堂の後ろから付いて行く。 香田に見えるのは海堂が歩く度にユラユラと揺れる頭頂部のみだったが絹糸の薄茶の髪ですら思わず触れてみたくなるような魅力を放っていた。 (まずいな…社長はこの子を囲うつもりらしい。) 以前から海堂の命によりこの日向 遼と言う少年の動向を見張っていたが夜な夜な暴力沙汰を起こしてその度に香田は事件にならないように秘密裏に処理をしてきた。 それがこんな風になるなんて… 海堂は初めから日向 遼を手中に入れたかったからに違いない。 そうでないと叔父の頼みとはいえ叔父の再婚相手の義理の息子にそこまで骨を折るなんて事はしない筈だ。 .
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