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「―――和ちゃん待ってよ!」
(かずちゃん‥?)
声変わりもまだなのか、男にしては少し高い声に面を上げて見やれば小柄な少年が衛の横をすり抜けて行く。
―――自然と目で追ってしまった。
特にコレと言った個性も特徴もない普通の少年。
今朝は寝坊でもしたのか緩い癖っ毛で毛先があちこち跳ねている。
丸くて可愛らしいふっくらした頬は幼さを残したままでほんのりと色付いていて、いかにも元気な健康優良児と言う感じだった。
衛は階下の廊下で立ち止まった和臣に追い付いて楽しそうに話す少年の後ろ姿をチラリと見ると、直ぐに興味を無くし視線を逸らして再び屋上へ向かった。
この時衛は、さっきすれ違った小柄な男の子が自分を大いに悩ませる事になろうとは露ほども思わなかった。
――空は快晴。穏やかな春の日の初見せ。
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