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香田の朝は早い。
海堂の自宅マンションに6時45分に出向かなくてはならない。
秘書たる者の勤めとして定時に海堂が出社出来るように細心の注意を払う。
寝坊などもってのほか。その為にわざわざ海堂のマンションから車で10分のマンションに引っ越したのだ。
あいにく近場には分譲マンションしか空き部屋がなくて、おまけに一等地とまではいかないにしろ高価な物件であった為に親からは『社会に出たての若者には身分不相応だ』と叱責された。
だが自分の役職と職務、それに伴う破格の給料を示唆すると快く頭金を貸して貰えた。
それから毎日同じ時間、同じルートを通って海堂の自宅へ向かう事となる。
駐車場に車を停めると先ずは専用のカードキーを使ってエレベーターに乗り込む。
静かに上昇するエレベーターでこれから海堂に伝える今日のスケジュールを頭の中で反芻する。
完璧に覚えている。
「…よし。」
扉が開き小さく気合いを入れると香田は一歩を踏み出すのだ。
そんな判で押したような決まった毎日が
1日の始まりだったのに、たった一本の電話で覆される事になろうとは…。
朝方の3時に鳴った海堂からの呼び出し音に香田の全身に只ならぬ緊張が走った。
今までも突然の呼び出しや緊急時はあった筈だ。
なのに………
何かがおかしい。
香田の直感がそう訴えた。
香田は急いで身支度を整えると今聴いたばかりの住所へと車を急がせた。
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