愁いの姫君

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. 初めて訪れる部屋。 玄関のドアを開けて奥へ進につれて異様な匂いに気がついた。 健全な男ならば嗅ぎ慣れた匂いと それに混じって生臭い鉄の匂いがする。 嫌な予感に短い廊下の先にあるはめ込みガラスのドアをノックして開けると目の前には惨状が広がっていた。 「せ、専務? 海堂専務?」 粉々に割れたグラスや引き剥がされたカーテンはロッドが幾つも破損して意味も無くぶら下がっている。 この部屋の家主はあまり物を置かない主義なのか、飾り気の無い至ってシンプルな部屋にもかかわらず荒れた様子が判った。 (この部屋の主は…?) 「片付けろ。」 「は、はい!」 明らかに海堂の手によって誰かが暴行を受けた形跡に香田は動揺した。 床に撒かれた精液と血糊の後……… 震える手を握り締めて脱衣場から持ってきたタオルで床の汚れを拭き取りながら匂いに噎せる。 (くそっ?!何て事だ! まさか死んでないよな?頼む……生きててくれ…) 祈る気持ちで片付け終えた時に海堂が現れて声を掛けた。 「終わったか? 行くぞ。」 「はい。」 香田が顔を上げて海堂を見ると腕にはシーツに包まれた少年がいた。 (これは………清水忠彦常務の? ―――――――どういう事だ?!) .
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