ある転校生

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「えーと、ちょっと待ってね」 そう言って、ファイルに挟まれた紙を見始めた。名簿表だ。 わざとらしい行為だが、心を落ち着かせようとしているだろうことは分かった。 その害を被った僕の頭は痛みがひいてきた。 それよりも、教科書の方は曲線のままであり、修復に時間がかかるようにみえる。 「はあ……」 意気消沈した教室の雰囲気にため息が出た。 さっきまで僕以外にも話し声は聞こえていたのに。今は聞こえない。 他の人々はいつ叱られるかも分からないと考えているのだろうか。 僕が目の前にいる数学教師の弟であると知っている者がいれば緊張することもなかっただろう。 もっとも、それは誰にも言ってない。 「ナグモナガレ、ね。その場で立ってなさい」 まったくもって、わざとらしい。 姉はそんな芝居を終え、黒板に向き直った。
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