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言ってみたが、そんなに苦しい物ではなかった。
喉を清々しい風が通り、気分的には気持ちが良い。
爽やかだ、とも言えないのは、未だにどす黒い負の感情が残っていたからだった。
ここから今すぐ逃げ出せ、と頭や心臓を締め付けていた。
それでも、ここに僕は座っている。
変な感覚だった。抵抗すれば、誰も傷つかず、傷つけずに済むハズなのに。
僕の忘れ去られた記憶は、まだこの体に染み付きこの呪縛から逃してくれないらしい。
覚えてはいない。ただ、心の奥底では思い出したくないと悲痛の叫びを訴えているのだ。
しかし、僕はそれらを騙し通して気にしないふりを続ける。
「そう真野。俺の彼女」
悠真は親指を立てて、自分自身の胸に当て、幸せそうに笑っていた。
悠真の後ろ。ちょうどそこに新井が見えた。
こいつら計算でもしてたのか?と苛立ちを覚えた。
今日はおかしい。何かが感情の矢印を負に向けている。
「あ! 悠真どこに行たの? 探してたのよ」
「すまん。懐かしい奴に会ってな」
悠真は手を合わせて謝っていた。懐かしい奴とは僕の事だろう。
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