友達

5/7
前へ
/52ページ
次へ
言ってみたが、そんなに苦しい物ではなかった。 喉を清々しい風が通り、気分的には気持ちが良い。 爽やかだ、とも言えないのは、未だにどす黒い負の感情が残っていたからだった。 ここから今すぐ逃げ出せ、と頭や心臓を締め付けていた。 それでも、ここに僕は座っている。 変な感覚だった。抵抗すれば、誰も傷つかず、傷つけずに済むハズなのに。 僕の忘れ去られた記憶は、まだこの体に染み付きこの呪縛から逃してくれないらしい。 覚えてはいない。ただ、心の奥底では思い出したくないと悲痛の叫びを訴えているのだ。 しかし、僕はそれらを騙し通して気にしないふりを続ける。 「そう真野。俺の彼女」 悠真は親指を立てて、自分自身の胸に当て、幸せそうに笑っていた。 悠真の後ろ。ちょうどそこに新井が見えた。 こいつら計算でもしてたのか?と苛立ちを覚えた。 今日はおかしい。何かが感情の矢印を負に向けている。 「あ! 悠真どこに行たの? 探してたのよ」 「すまん。懐かしい奴に会ってな」 悠真は手を合わせて謝っていた。懐かしい奴とは僕の事だろう。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加