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公園の大木の近くでうずくまって、木の香りをかいでいた。
大木は触れてしまえば崩れてしまいそうな程朽ちて、その肌は黒っぽいのか、白っぽいのか、よく分からない色をしていた。
ただ、ぼんやりと茂みを眺めながら。
これからどこに行ってどうやって生きようか、そればかりを考えていた。
その時は寒い夜で木々も静まり返り、吐く息の白さはこれでもかという程白く濁っていた。
「見つけた」
そうしているうちに姉は、木に寄りかかるように僕を見下ろしていた。
木の後ろ側にいるのになぜ分かったんだ。
心を見透かしたように姉は言った。
「あんたの友達が教えてくれなきゃ、あんた本当に一人暮らしする事になってたよ」
僕はそれでも良いと思っていた。
家出をした理由は頭の片隅に追いやられて、今ではぼんやりとさえ思い出せないのである。
この話は、愚痴に同意してくれている隣の席の彼女にはしていない。
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