【序章】

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「これほどとはな……、恐れ入ったよ」  頭上に広がる淀んだ紅の空と、大地を埋め尽くす無数の血と肉、屍。  それが目の前で事切れている男の造り上げたものだと考えると、畏れずにはいられなかった。  原形は全く留めていないものばかりだが、それらの元が人であった事はわかっていた。  彼はふと紅い空に眼を向ける。すると、空に広がる紅い何かを追い出すかのように、眩い日の光が姿を現した。 「……この世界も、もう一度蘇るのだろうか」  男が、地面を這いずりうごめく屍の群れに呑み込まれ沈んでいく。その姿には目もくれず、彼は背に携えた純白の双翼を羽ばたかせ、舞い上がる。  ただ真っ直ぐに、久しく浴びる陽光の元を目指して、彼は飛んだ。 「マレアス、お前の罪、私への怒り、憎悪。全てを抱いて私は行く」  胸に手を当て、その一言を自らに戒めるかの如く述べ、最後に、大地で沈む男を一瞥した。 「だからあっちで見ていてくれ。 私は、この世界を見守る主となるから」  そして、再び光に向かって飛翔する。その姿は、陽光を浴びて神々しく、何にも形容出来ない程に美しく映っていた。
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