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お気の毒に、と店主は静かに首を振り、真理子はかすかに頷いた。
「私と妹は、それは似ていました。一卵性双生児で」
うつむきながらも、真理子ははっきりと喋った。
「名前は、真紀子と言います。私より先に生まれたので妹です」
「あぁ、双子は、そうでしたね」
「ええ、そうなんです」
なぜそうなのかは大した問題ではなく、そして真紀子が妹かどうかも大した問題ではないことを真理子はわかっていた。
「双子でしたから、小さい時からなんだってお揃いで、いつだって一緒でした」
目を閉じれば、自分と寸分たがわぬ顔をした妹を思い出すことができる。
親でさえ見分けがつかなかった、自分の分身のような存在を思い出し、手がかたかたとふるえた。
帰る家は当然同じ、着る服だってお揃い、一緒の楽譜を持ってピアノ教室に通い、おそろいのワンピースで発表会に出た。
「大学まで同じ大学に通って、ある日真紀子が言ったんです」
にこにこと、真理子とお揃いのロングの髪にアイロンを当てながら、にこにこと。
「マリちゃん、私、好きな人ができちゃった」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
真紀子は楽しそうに鏡の中の自分に向かってメイクをしている。
しかし、思い当たる節はあった。真紀子と仲のいい、真紀子の口からよく名前の出る、真紀子と一緒時間を過ごした男性なら、確実に真理子も同様のことが言えるからだ。
いつだって一緒なのだから。
「醍醐君?」
同じサークルの男の子で、おしゃべりの楽しい人だ。真理子も悪い感情は持っていない。しかし恋愛感情かと言われるとどうにもぱっとしない。
「やっぱりマリちゃんにはバレてたかぁ」
小鳥のささやくように笑って真紀子はチークを頬骨の上に載せていく。それがメイクのせいなのか、真紀子の表情のせいなのかわからないが、
とにかく幸せそうに。
「当たり前でしょ」
「双子だもんね」
「そうよ…当たり前だわ」
しかし実際、真理子はぐっと震える手を押さえていた。どうにも、真紀子が醍醐を好きだということが納得いかない。
どうにも。理屈になっていない理屈だが、真理子は真実そう思った。だって…真理子は、醍醐が好きではないのだ。それなのに。
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