幻燈庵

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千鳥の鳴くような音をさせて、まず暗闇に火が灯った  火は、ゆらゆらと暗闇を進み、一つの影に近づいて形を与える。  ぼ、と、鈍い音をさせて灯りは明りになる。  トンボをデザインしたランプはガレの作品に似ていて、夜の闇をオレンジ色に照らす。暗闇に形を与えていく。    その柔らかく温かい明りに浮かぶのは、ガレージセールを縦に積み重ねたような雑多な品物達。小学生が作ったような粘土細工の隣に、魂の叫びを塗り込めたような油絵が並んでいる。しかし、何の違和感もない。    もう一度、千鳥の鳴くような音をさせて火が灯った。    火は、ゆらゆらとしばらくそこに留まっていたが、やがて一つの暗闇に差し込まれた。    ぼ、と、鈍い音をさせて明りが灯る。    ライラックをデザインしたランプはガレの作品に似ていて、暗闇から扉を浮かび上がらせた。 そして  最後に、ぱん、ぱん、と、軽く手をたたく音がすると、まるで手品のように忽然と暗闇から人が形をとった。しかし…それは実に、 何の違和感もない出来事だった。
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