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結局一滴も口にされることのなかった店主のティーカップで、紅茶は不満げに揺れている。
白い手袋をはめた手で、店主は分厚い日記帳を眺めていた。
「…どう思う?」
小さな声でたずねながら、店主は千鳥の音をさせて火を灯し、オウムの剥製の脇にあるランプに明かりをともした。
すると、いったいどうしたことか、オウムは2,3度ばさばさと派手な翼をはためかせ、「グワッ」とアヒルのような声を上げた。
「最初から、何一つとしてお揃いなんかじゃなかったのさ。調整のたまものだ。グワッ」
「調整のたまもの、ふむ」
さして驚いた風もなく、店主は滑らかにしゃべるオウムに相槌を打つ。
「調整のたまもの、まさしくそれだ、グワッ、それでなくたって、世界中のあらゆるものが、たった一つしかない世界を取り合ってる、グワッ」
店主の手の中で、分厚い日記帳がぐるぐる回り、鍵の部分が軽い金属音を上げた。
「まぁ、人はえてして比べられるもの、同性の兄弟姉妹など特に、なるほど」
「グワッ、その上双子、グワッグワッ」
けたたましく馬鹿にしたような響きを持ってオウムは羽ばたく。
「そろえておかないと不安なんだよ、だって比べられるから。グワッ、あの手見たかい、がくがく震えて鳩の首みたいじゃないか、グワッ!」
オウムがそういったとたん、まるで抗議するように鳩時計がぽっぽーと時間はずれな時報を鳴らした。
まぁ、まぁ、なだめるように店主は鳩時計に手を振った。
「お揃いであることは自己防衛、手段と目的の混合、逆転」
「グワッ、不安だからお揃いにしておきたかったのに、お揃いがいなくなったことが不安になるなんて馬鹿な女、グワッ」
オウムはもう一度バサバサと翼を打ち、鳥籠がブランコのように揺れた。オレンジの明かりは揺れない。
「今頃、妹と お 揃 い になってる、グワッグワッ」
オウムの言葉には答えず、店主は手帳を本棚へしまった。
まるでそこから抜き出したかのようにきっちりと手帳は収まり、素直に本棚の一員になった。
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