幕間…水無月の石

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千鳥の音をさせて暗闇に火が灯される。  火は、ゆらゆら揺れながら闇を移動し、一つの影に与えられる。  ぼ、と鈍い音をさせて灯りは明りになる。  トンボをデザイしたランプはガレの作品に似ていて、夜の闇をオレンジ色に照らす。  暗闇に形を与えていく。  今にも踊りだしそうなバレリーナのオルゴールはスパンコールを輝かせてフェッテの途中。  しかしパ・ド・ドゥを踊るパートナーはいない。一人ぼっちのバレリーナ。  もう一度、千鳥の音をさせて暗闇に火が灯される。  ぼ、と鈍い音をさせて新しい明りが灯る。  菫の花が浮かび上がるランプはガレの作品に似ていて、柔らかなバイオレットを暗闇に投げかける。  菫のランプの隣、螺鈿の木枠が美しいアンティークなショーケースの蓋が開き、指輪が一つ宙に踊る。  きゅっ、きゅっ、貴金属を磨くくすぐったい音が響くと、暗闇から忽然と一人の男が形をとった。  実に、実に、摩訶不思議でありながら当然の様子で。  
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