幕間…水無月の石

4/4

2816人が本棚に入れています
本棚に追加
/583ページ
「その石は痛みと悲しみで出来ている」 「そうでしょうとも」  だからこそ美しい、溜息のように店主は続け、低い声はさらに声を低くした。 「それを作るのは何か知っているか」 「もちろん。不運でいたいけな…」  ふと、誰かに呼ばれたように店主は顔をあげた。  細心の注意を払って指輪をショーケースに戻し、ライラックをデザインしたランプの隣まで歩いて行った。  店主の後ろで低く呻く声がしたが、彼は振り向かない。  千鳥の音をさせて火が灯り、それをランプに移した。  ぼっ、ひときわ大きな音をさせてランプに火が灯り、店の入り口が姿を現した。  オレンジの光に満ちた店を見渡し、店主は満足げにショーケースの蓋を閉じた。  ガラスの牢屋の内側で、世にも美しい貴金属が、今にも誰かを魅了しようと光の手を差し伸べていた。
/583ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2816人が本棚に入れています
本棚に追加