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「その石は痛みと悲しみで出来ている」
「そうでしょうとも」
だからこそ美しい、溜息のように店主は続け、低い声はさらに声を低くした。
「それを作るのは何か知っているか」
「もちろん。不運でいたいけな…」
ふと、誰かに呼ばれたように店主は顔をあげた。
細心の注意を払って指輪をショーケースに戻し、ライラックをデザインしたランプの隣まで歩いて行った。
店主の後ろで低く呻く声がしたが、彼は振り向かない。
千鳥の音をさせて火が灯り、それをランプに移した。
ぼっ、ひときわ大きな音をさせてランプに火が灯り、店の入り口が姿を現した。
オレンジの光に満ちた店を見渡し、店主は満足げにショーケースの蓋を閉じた。
ガラスの牢屋の内側で、世にも美しい貴金属が、今にも誰かを魅了しようと光の手を差し伸べていた。
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