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香りのよい液体をのどに流し込んで、真理子は丁寧にカップをソーサーに置いた。
赤い革の手帳の横で、かちりと小さな音を立てる。
それを見ないように眼をそらし、真理子はうつむいたまま口を開いた。
「価値があるかはわかりませんが、それは私にとって一生に一つのものでしょう」
捨ててしまいたいもの。捨てがたいもの。
「それは、私の双子の妹の日記帳です。鍵はありません、誰もありかを知らないのです」
ぼーん、と間抜けな音をたてて置時計が鳴る。振動を受けてガラスのピエロが小さく震えた。
真理子は空気を肺腑へ送り込んで、ようやく声を絞り出した。
「妹は先日、交通事故で亡くなりました」
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