生々とす。-キキトス-

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血飛沫を追って、貴方は駆け出す。 「ああ、愛しい僕の人形、」 床に散った鮮血を、膝をついて貴方は舐める。 美味よ。 「ああ、愛しい僕の人形」 紅く濡れた人形の左手に頬を寄せ、貴方は微笑む。 「僕は、紅い色が大好きなんだ… ああ、愛しいよ。 君はみずからを犠牲にしてまで、 僕に紅をくれるんだね」 紫のルージュが塗られた唇は硬く閉じて、愛など語るわけもなく 貴方の頬は紅く濡れ、煌々とし喜々とし奇々とす。 「ああ、でも何故だろう。君を確かに愛しているのに、 僕は、別の女を抱くんだ。 何故だろう。 君はこんなにかわいらしくて美しいのに、 汚れた女を抱いてしまうんだよ。」 美味よ。舌の奥にのこった、鉄の味。 「でも君だけだよ。 こんなに美しい紅を僕にくれるのは 君しかいないよ」 血でべたついた指で、髪を撫でる。髪は変に艶を増し、てらてらと光る。 貴方はいつものとうりに、胸の膨らみに手を添える。 「君は、人形なんだよね? なのに何故、此処が揺れているの? まるで鼓動のようだよ」 血に染まりながら、貴方は私を抱く。 愛しい、貴方はそう言ったけど 唇を吸い、胸を噛み、腰を打ち付ける、その動きには、愛なんて幻、見えなかったわ。 「生きているみたいに温かいね、 最高だよ 僕の愛しい、人形」 いっそ人形のほうがよかったわ こんな痛み、感じずにいられたもの
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