迎え火 送り火

3/9
前へ
/12ページ
次へ
 祭へと向かう道中、大きな河に架かる橋の袂へ差し掛かった時の事。  河原の沿いに求知の心そそられる奇異な光景。その人集りは、先を急かす小太朗の脚をも止まらせた。 (……何の騒ぎかな)  首を傾げてあねぐ小太郎。そろそろと近寄り、人集る背中に耳を澄ませば、時折籠もる話し声が朶をかすり鼓膜を震った。 「訊いた話に拠ると、あの橋の上から落ちたそうじゃないか」 「何と、あそこから落ちたのでは到底助かるまいて」 「……不憫な子じゃ」 「この炎天下、友達を待っていたらしいわい。可哀想な話だが――」  “喚ばれた”のだろう。  迎り火灯らぬ弓張り提灯。  愁に映える泡沫の命。 (まさか……龍之介君!?)  深い深い水底へ、吸い込まれる様に消えた友の姿が過る。  水面に生える数多の白手。  流れに漂う水草が、おいでおいでと聲無き誘い。藻掻く友の肢体に羽交い絞む。  闇闇裡――  其の身は冷たい鎮めの水へ。 「ちが、……違う」  踵を返し、小太郎は逃げるように走った。  処狭しと立ち並ぶ露店。  チリリーン、チリリーンと鳴る硝子細工の風鈴の韻が、何処までも追い掛けて来るようだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加