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祭へと向かう道中、大きな河に架かる橋の袂へ差し掛かった時の事。
河原の沿いに求知の心そそられる奇異な光景。その人集りは、先を急かす小太朗の脚をも止まらせた。
(……何の騒ぎかな)
首を傾げてあねぐ小太郎。そろそろと近寄り、人集る背中に耳を澄ませば、時折籠もる話し声が朶をかすり鼓膜を震った。
「訊いた話に拠ると、あの橋の上から落ちたそうじゃないか」
「何と、あそこから落ちたのでは到底助かるまいて」
「……不憫な子じゃ」
「この炎天下、友達を待っていたらしいわい。可哀想な話だが――」
“喚ばれた”のだろう。
迎り火灯らぬ弓張り提灯。
愁に映える泡沫の命。
(まさか……龍之介君!?)
深い深い水底へ、吸い込まれる様に消えた友の姿が過る。
水面に生える数多の白手。
流れに漂う水草が、おいでおいでと聲無き誘い。藻掻く友の肢体に羽交い絞む。
闇闇裡――
其の身は冷たい鎮めの水へ。
「ちが、……違う」
踵を返し、小太郎は逃げるように走った。
処狭しと立ち並ぶ露店。
チリリーン、チリリーンと鳴る硝子細工の風鈴の韻が、何処までも追い掛けて来るようだった。
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