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雨が降り注ぐ夏の日、電車から降りた達也は、空を仰ぎつつ駅のホームで呟く。
「やっぱり降り出したか」
駅の出口で折り畳み傘を取出し、雨粒を防ぎつつ自宅へ向かう。
少し歩いた所で、雨に濡れるのも構わず泣いている女性を見かけた。
何故泣いているのかは分からないが、雨に打たれたまま置いておくのも可哀想だ。
「これ、使いなよ」
達也は自分が濡れるのも構わず、傘を女性に差し出した。
「え、でもこの傘を借りたら貴方が……」
「俺の家近いし、いいから使いなって」
半ば強引に傘を渡した達也は、降りしきる雨の中、その場を走り去る。
女性は渡された傘を握り締め、走り去る達也の背中を、見つめていた。
それから十分後、達也はまだ走り続けている、どうやら彼の言う「近い」は嘘だったようだ。
翌日、案の定達也は風邪を引いてしまった。
会社を休み、家で療養していると、玄関から音が響く。
ピンポーン。
重い身体を引き摺り、玄関のドアを開くと、昨日傘をあげた女性が立っていた。
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