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好きなのになんで?
諦められないという表情を浮かべ、何か喋ろうとしる達也を止め、さらに千代が話を続ける。
「私ね、実は人間じゃないの、世の中では死神と言われている存在。死神と言っても、達也君の命を奪う為に近づいた訳じゃないよ。ただ、本当に達也君が好きになったから。でも……ダメなの、死神と人間は交われない、決まりなのよ。だから、ごめんなさい」
普通の人間がいきなりこの様な話をされても信じる事は出来ないだろう。無論、達也もだった。
「いきなりそんな事言われても信じられないよ、俺を馬鹿にしてんのかよ」
「証拠、見せようか?」
千代がそう言うと、徐々に千代の身体は透け始め、ついには、達也には見て取るのが不可能となった。
達也以外誰もいない公園に声が響く。
「信じて貰えたかな」
愕然とする達也に千代はさらに話を続けた。
死神とは人間が勝手につけた名前で、命を奪う能力等無い事。
普通の人間は死んだら天界へ送られるが、死神は現世に取り残される事。
死神が天界へ行くには、死神同士で愛し合わなければならない事。
しかし、死神になれる条件を満たす者が少ない為、巡り会う事すら滅多に無い事。
そして、絶対結ばれる事の無い人間に恋をしてしまい、何度も涙を流して来た事。
千代の話は浮世離れした物だった。全ての話を聞いた達也は、頭の中で情報をまとめ、覚悟を決めたかのように口を開いた。
「俺を死神にしてくれ、そうすれば千代と……」
しかし千代は、予想していたかの様に達也の話を遮り、それを否定する。
「ダメなの、死神になる条件は、愛する人間に殺される事、私には貴方を殺せない、それに人間じゃ無いから殺したとしても意味が無いわ」
それでも諦め切れない達也は、何時間も千代と話したが、どう足掻いても結ばれる事は無いらしい。
もうダメだと分かった。
頭の中は真っ白だ。千代と別れた達也はフラフラと公園から出て家路をゆく。
少し歩いたその時だった、制限速度を遥かにオーバーしたトラックに達也の身体が攫われたのは。
達也が気が着くと、目の前には大粒の涙を流す千代がいた。
「達也君、大好きだよ……」
笑顔を浮かべた死神は、達也にそっと抱擁した。
どうやら達也をひいたトラックは、彼の愛する母親が運転していたらしい。
母親の悲しむ姿は見るに耐えなかったが、そう悲観するものでも無いだろう。
彼女とはまた天界で会えるのだから。
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