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「はい、では皆さん、こちらのSLに乗って下さい。なに、案ずる事はありません。それとも、ここまで来て死ぬのが怖くなりましたか?」
男の話を聞いて、臆病風に吹かれたのだろう、何人か帰るものもいた。
たが、僕は言われた通り、SLへと乗り込んだ。死ぬ為にここへ来たのだ、今さら帰るなど考えられない。
座席に座り少しすると、機関車はいきなりガクンと揺れ、その瞬間、目の前が真っ暗になり意識が途切れた。
何分か気を失っていた様だ。僕が目を開けると、なんと、窓から小さくなった町が見える。
機関車が空を飛んでいるのだ。まるで、銀河鉄道の様に。
少々の感動を覚えながら、少し経つと、車内にアナウンスが流れる。
「次はフランス。次はフランス」
すると、窓の景色は流れ、一瞬でフランスについた。
エッフェル塔を始めとする観光名所等をゆっくり見て回ると、またもアナウンスが聞こえる。
「次はイタリア。次はイタリア」
それから、またも機関車は、イタリアまでの距離を、信じられないスピードで駆け抜け、観光スポットの近くだけ、ゆっくりと走った。
その後も、機関車は世界中の国を渡り、観光名所の周りだけ、スピードをゆるめながら走る。
不思議だ。先人達の造った偉大な建造物や、大自然の造り出した、広大な景色を見ると、不思議と自分の悩みが小さい事に思えてくる。
もう地球上はほとんど回った、この旅もそろそろ終わりなのだろうか。
少し感傷にひたっていると、またも車内にアナウンスが流れた。
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