卵をめぐって

2/2
前へ
/92ページ
次へ
ある貧困な国で、13歳の少年と、彼より2歳年が下の妹が、1つの卵を見て議論していた。 「ねえ、お兄ちゃん。この卵どうやって食べようか? 生? それとも熱を通した方がいいかしら?」 「いや、この卵は最後の一個だ。もっと、ゆっくり考えようじゃないか。後から後悔しても遅いしな」 少年がそう言うと、妹もそれに同意し、二人で卵の食べ方を考える事となった。 とはいっても、貧困の真っ只中。バターも調味料もない。傍から見ると、卵の食べ方など限られていた。 少し考えたみたいたが、どうやら、いい食べ方は見付からなかったらしい。 すると妹は、何か名案を思いついたらしく、口を開いた。 「そうだ、この卵を食べるんじゃなくて、この卵を大きな鶏に育てて食べればいいんじゃないかしら」 しかし、兄はそれを否定する。 「ダメだ、それでは時間がかかるし、鶏のエサだって用意できない。こっちが先に飢え死にしてしまうよ」 妹も、確かにそうだ、という表情を浮かべて、兄の意見を聞き入れた。 しかし、これでは先へ進まない。二人が困っている様子でいると、先ほどから見ていた一人の男が兄弟に話しかけた。 「どうだい?もし良かったら、その卵とこのパンを交換しないかい? こっちのパンの方が大きいし、調理しなくても食べる事ができるよ」 とても良い条件だ、といった様子で、男はいやらしく笑いかける。 兄弟は、男の条件にのり、パンと卵を交換する事にした。 男は兄弟のいるところから去ると、一人にやけながら呟いた。 「あはは、やはり子供は頭が悪い。この国では卵の方がパンより10倍の価値があるのにな。全く、あの兄弟には、得をさせてもらった」 一方、兄弟は男が去った後、まぶしいばかりの笑顔を浮かべ、二人でパンを分け合って食べた。 満足そうに妹が言う。 「すごい、お兄ちゃんの言うとおりにしたら、本当に食べ物が手に入ったわ」 すると、兄も笑顔を浮かべてこう言った。 「大人は欲深いからね、価値の高いものには弱いのさ。子供相手だと油断もするしね」 満腹になった兄弟は、腐って食べられなくなった卵を、もう1つ取り出し、次の獲物を待つ事にした。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

719人が本棚に入れています
本棚に追加