訪ね人

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山崎圭吾は、先月警部へと昇進したばかりだった。 芯が通っていて正義感が強く、キャリア組なのにそれを鼻にかけず、現場へ進んで出て行く。そんなタイプの人間だ。 おそらく、警察内部に彼の事が嫌いな人間は数える程もいないだろう。 ある日、そんな圭吾のもとへ、一件の奇妙な事件が舞い込んだ。 なんと、管轄の地域の学校の生徒、及び職員限定で、行方不明者が多発していると言うのだ。その数は今で十余名にのぼっている。 圭吾は、最初その話を聞き、集団でのボイコットか何かと推測したのだが、詳しく聞く所、行方不明になった日は、ほとんどまちまちだと言う。 最初は単なる家出かと思われたが、同じ学校の人間だけ何人も不自然に失踪した為、捜査方針を切り替え、捜査本部を設置するまでの事件になったというわけだ。 その知らせを受け、圭吾はすぐさま部下と捜査へと乗り出した。 とりあえず行方不明者の家庭で何件か聞き込みを行った結果、すこし事件の法則性が見えてきた。 行方不明になった人間は、生徒、教師に関係なく、全員が学校へ行ったまま帰って来なかったのだ。 こうなると、とりあえず学校関係者から話を聞くしかないだろう。そう考えた圭吾は、学校へと向かう。 だが、生徒や教師からは、事件に関係すると思える重要な情報は得る事が出来なかった。強いて共通する事と言えば、失踪した何人かは読書好きが多かったとの事だ。 それから何日か聞き込み捜査を続けたが、それ以上の情報は出てこない。 今までの情報をまとめたが、やはり読書好きが多いということしか手がかりが無い。 そう考えた圭吾は、少しでも手がかりがあればと思い、学校の図書室を調べてみる事にした。 聞き込みは引き続き部下に任せ、圭吾は学校へと向かう。 事件を恐れてか、学校は休校になっていた。捜査用に借りた鍵を使い、学校へ入り図書室を目指す。 目的の図書室へ着くが、ぱっと見てもおかしな点は無い様だった。 だが一見しただけではまだ分からない。圭吾が詳しく此処を調べようと、本棚に近づいたその時、どこからか声が聞こえた。 「ここだよ……」 もちろん、図書室には人がいる気配は無い。不思議に思い、声の方向へ視線をうつすと、視界に一冊の本がうつった。 圭吾がなんとなく、その本を手に取ろうとした、その時だった。 彼の体は本に引きずり込まれ、完全に図書室から姿を消してしまった。
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