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本に引きずりこまれた圭吾が最初に目にしたものは、失踪した人達であった。
閉じ込められたと言うのに、不思議と彼らは幸せそうな顔をしている。
疑問を感じ、彼らに話を聞こうとすると、またも先ほどの声が聞こえる。
「いらっしゃい。ここは君の願いが何でも叶う世界。勿論、君が願えばここから出る事も自由さ。ゆっくりしていってね」
少し困惑した様子の圭吾だったが、とりあえずその声の主に質問をしてみた。
「本当に願いが叶うのか?」
やはり冷静さを欠いては、的を得た質問など出来はしないのだろう。
圭吾の口からはありきたりな疑問しか出てこなかった。
「本当だよ、嘘は言わない、何でも叶う。とりあえず何か願ってみなよ」
失踪した人間も無事な事だ。とりあえず声の主にしたがってみる事にした圭吾は、願いを考えてみる。
落ち着いて考えると、名誉やお金等、いくつか願いを思いついた。
しかし圭吾は思い直した。今は自分の願い等叶えている場合ではない。ここにいる人の家族は皆心配している事だろう。
そう思い圭吾は一つの願いを口にした。
「俺とここにいる人達全員を、元の世界に戻してくれ」
すると、すぐに返事が来た。声の主の口調は嬉しそうだ。
「やっと、清らかな人間に逢えた。実はね、この世界は自分だけの願いを望むと、一生出られないんだ。君が自分の事だけを願えば、ここの人達は皆僕に心を奪われたまま消えてゆく運命だったよ」
圭吾は一瞬ぞっとしたが、怒りをあらわにして声に向かって問いただす。
「何故この様な事をした。お前は何が目的なんだ」
すると声の主は、圭吾の怒りなど、気にも止めず、満足そうに答えた。
「目的は、君の様な人間を捜す為さ。いいかい? 人間は貪欲だ。全員が自分の事しか考えないなら、いずれこの世は人間の手で終わる。そうさせないのが僕の仕事なんだ。君たちを生み出したのは僕なんだから、その責任がある。だが僕は満足だよ、君みたいな人間が、まだいたと言う事に」
その言葉が終わると同時に、圭吾達は図書室へと戻っていた。
それと同時に本は、不思議と消えてしまった。
それを見た圭吾は一人呟く。
「あいつ、いや。あの方は……。まあ、深く考えるのはやめよう。とりあえず全員無事だ」
これで事件は解決だ。だが神はいつかまた人間の前に現れるだろう。その時代に清らかな人間がいれば良いのだが。
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