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「おい! そのシャツは俺のだろう」
俺がそう言うとあいつも反論した。
「あら? シャツ程度でムキになるなんて大人気ないのね」
と言いつつ、あいつはシャツを離さない。引っ張りあいこの形になり、シャツは無残に千切れてしまった。
俺とあいつはそれを見て笑う。こんな毎日が楽しかった。
それから数日経った発表会の日。あいつは俺の紙を離さない。俺もそれを引っ張ると、あの時のシャツのように、無残に紙はやぶれさった。
俺は笑えないが、彼女は少し微笑んでいる。今さら代わりは利かない。俺は発表会を諦めた。
そうなると、やはりあいつの作品が金賞だろう。
悔しいが、あいつにとっては初めての金賞だ。俺は我慢してあいつの結果を喜んで受け入れた。
それにしても、近所だけを集めた書道の発表会でそこまでムキになるとは、どっちが大人気ないのやら……。
それでも、あいつの笑顔を見るのはやはり嬉しいものだ。
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