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一六四十年、八月七日。
この船はイスラムまで鉱石や織物を届け、それと引き換えに香辛料や絹を積み込み、ヨーロッパを目指す貿易船である。
無事今まで航海を続けてきた我が船にも、ついに海賊が攻め込んで来る時がきたのだ。
我が船に横付けした海賊船の乗組員は、はしごを用意し、こちらの船へと引っ掛けようとしていた。
やっとあと二日でヨーロッパ大陸へ帰れるというのに、全くついていない。
本来ならば船長として、堂々たる態度で、乗組員を守らなければいけないのだが、この悲劇を後世に伝える為に、船長室まで逃げてきて最後の日誌を書いているのでる。
奴ら海賊は本当に残酷な奴らである。とても耐え難いが、いまごろ海賊達は、我が船の乗組員を次々と殺していっている事だろう。
見なくても分かる。友人の船もいくつか海賊にやられたからだ。
無残にも潮の流れに乗って帰ってきた友人の船は、乗組員は惨殺され、食料や積荷は全て奪われていた。
奴らは日誌などには興味が無いらしく、書籍類は全て残っていた。友人である彼らの日誌には、最後に無念の言葉が刻まれていた。
この船も、あと数時間後には友人の船と同じ運命を辿るのだろう。そう考えるとやり切れないが、せめてこの日誌を読んだ人間が、人の命を少しでも重んじてくれれば、私もこの日誌を書いたかいがあると言うものである。
もっとも誰かがこの日記を読むときには、私はこの世にはいないだろうが。
ただ、後世の世の中で、少しでも争いが無くなる事を心より祈る。
――貿易船ヨーロッパ号、船長ピーター
ピーターが日誌を書き終えると、船長室の扉が勢いよく外側から開かれた。
扉を開けた男がピーターへと話しかける。
「船長安心して下さい。さっきの船は海賊を殲滅した海軍が乗っていた船でした。この船に乗り込んで来た海兵は、気をつけて航海を続けてくれと、とても爽やかに挨拶してくれましたよ」
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