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熱は38度を上回り、体の節々が痛い。貴史はどうやら風邪を引いてしまったようだ。
しかし、今日は絶対に外せない会議がある。この会議を休めば、会社の信用は地に落ち、多大な損害がでる事であろう。
どうにかこの風邪が一瞬で治る薬はないのだろうかと貴史は思った。
彼がそう考えていると、ふいに玄関のチャイムが鳴る。
貴史がドアを開けると、白い手袋をし、背広を身に纏った一人の男が立っていた。
「突然失礼します。私お薬の訪問販売をしているものです。」
これは渡りに船だ。貴史は早速効き目の強い風邪薬を販売員にお願いした。
「実は今、とても高い熱が出て困っているのです。この熱を一瞬で覚まし、間接の痛みを無くす薬はないでしょうか?」
すると男は答えた。
「ある事はありますよ。ただ、この薬はビックリするほどお値段が高い上に、副作用も強いのですが」
貴史はそんなこと構わないといった表情で男に言う。
「副作用なんていいんです、この辛さが無くなるならばどんな薬でも良い」
すると男は、かばんから一つの薬を取り出した。
「この薬を飲めば、熱は引き、痛みも取れるでしょう。もちろん効き目もすぐに現れます」
そしていやらしい笑みを浮かべながらこう続けた。
「お値段は十万円になりますが」
今日の会議を自分が休めば、会社の損害は十万どころの騒ぎではない。
貴史は仕方なく、男に十万円払い、彼が家を後にしたあと、薬を飲み干した。
薬の効果はすぐさまあらわれた。貴史の熱は下がり、関節の痛みも感じる事は無くなった。
たが副作用は感じる事は無いだろう。
販売員の男は、貴史の家を離れると笑いながらつぶやく。
「嘘はついてない。死ねば熱も引き痛みも感じないだろう。お陰様で儲けさせてもらったよ。手袋で指紋はつかないから警察に見付かってもばれる事はない。金さえ手に入れば、誰が死のうと俺の知った事ではないからな」
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