詩人きたりて

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その後、歌い疲れた詩人は、広場から離れ休んでいた。少し時間が経った時、一人の女性が詩人に声を掛けた。 「さきほど歌っていた方ですよね。平和を望むとても良い詩でした。私、目が覚める思いでした」 顔は整っていて、とても華やかな雰囲気の女性である。詩人はしばしその女性に見とれた後、はっとして言葉を返した。 「はい、少しでもこの国の人々に希望を持ってもらえればと思い書いた詩です。喜んでもらえたなら嬉しい限りだな」 それから少し会話を交わし、詩人と女性は別れた。 その後、詩人はその女性が忘れられず、城下町を離れられないでいた。女性もまた、詩人の事が忘れられず、何度か広場へと足を運んだ。 二人に愛情が芽生えるのに、そう時間は掛からなかった。 それから何ヶ月が経った時、悲劇は訪れた。 突然この国の国王が詩人のもとへと現れ、「娘の事は忘れすぐさまこの国を出て行け」と命令したのだ。彼女はこの国の姫だった。 詩人は泣いて彼女との交際を願ったが、国王は聞く耳を持たなかった。詩人は彼女の事が心残りだったが、このまま国に留まれば命はないであろう。仕方なく詩人はその国を後にした。 それから数十年後、一人の若い詩人がこの国を訪れた。昔とは違い、笑顔が満ち溢れる国だった。
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