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どん底。スピカは這い上がれない程深い崖に蹴り落とされていた。
理由はいろいろ様々あったが、最早、どうでも良いのだろう。
あっちこっちにぶつかりながら、気重い足取りでどこ行く宛もなく歩いている。
途中、桟橋付近で何を思ったのか屈み込み、暗闇に写る自分の顔を手で掻き回した。端から見れば痛々しい光景だとスピカ本人は気付いているのか居ないのか、そのまま、水に飛び込もうとする。
「スピカ副隊長っ」
通り掛かりの水夫が、スピカを羽交い締めして止めた。
監獄島へ帰って八日目の夜は寒い風が吹き荒れる。
「放っておいて下さい」
スピカは、疲れた様に水夫を見返して小さく言う。
「自棄に痛い目に合った顔だな。どうした」
水夫は、スピカと面識がある。第三等星のクロス・ギアルだった。クロスが少し乱暴にスピカをミフィア湖から離して、桟橋から外れた場所まで引き摺る。
スピカはその間、回転しない頭で溜め息を闇に吐き付けていた。
倉庫の側に座らされ、頭を叩かれたスピカは、クロスの顔を見遣り言う。
「酷いことなんてなんにもありませんよ。ええ。理不尽さは何時ものことですから」
「まあ、そうひねくれるな。話なら聞く。なんなら、ミストさんの処へ行くか」
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