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クロスの促しにスピカは笑う。
「先程まで、お邪魔していたんです。行くとこもありませんでしたから」
出た言葉はどこか渇いた響きで、スピカ自身は誰とも関わりたい気分ではなかった。人が居なければ叫んでいたかも知れない。流石に今日は参っていた。心情に襲った現実はあからさま過ぎて未だに、整理できない。
「そんなこと言って。目を離したら自殺は勘弁しろよ」
水夫姿のクロス巡査が明るめに忠告してくる。
「違いますよ。ちょっとバランスが崩れただけです。僕には死ぬ理由なんかないんですから」
それに対して、スピカなりに調子を付けて言ったが、少しだけ自棄君の感は残った。
「そうか。そうか。まあ、死ぬならとっくに死んでるよな。そんで、何がどうした」
クロスがスピカの髪を手でぐちゃぐちゃにして笑った。島に来る前は大陸で荷物運びをしていたと聞くだけに、その手は大きく、分厚い。
島に就任してからも、第三等星の制服は着ずに、水夫の制服を好んで着る有り様だったが、第三等星警察隊隊長グアルサ・ニムロがそれを許可しているので、特に問題もない。
寧ろ、水夫が警察隊の人物とは思わない小悪党の侵入やスラム街で起きている賭事に関して検挙率が上がっていると言うことで、重宝された人材だった。
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