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それだけでなく、面倒見も人柄も良い。暇な日を利用して武道の講師をしている節もある。島では何かと名前の知れた存在が、スピカの前にその巨体を屈めた。
肌は浅黒く日焼けし、島一番の健康体とも言う。小柄なスピカから見れば、おっきな人と言うのが第一印象だったと言える。
「やっと、辞表が受理されました。もう、悩むことなくこの島から出ていけと、ハリス長官に言われたんです」
数年前から何かと事件がある度に、世話になったクロスに、スピカは笑いながら言う。自分は笑っていたつもりだったが、クロスにはそうは見えなかったらしい。いきなり、額を弾かれて両手で抑える。
「痛いですよ。だから、もう放っておいて下さい」
スピカは言った。死ぬ目にあって、やっと帰って来たと言うのに、対応がこれだ。別に絶賛を浴びたい分けでもなく、労いを掛けて欲しいとも思わない。ただ、前の生活にあった穏やかさだけが欲しかった。
それも、島の事情が変わったくらいの理由で解雇なら分かる。それが、違うのだ。原因は自分では無く、理由も果てしなくあやふやだった。放っておいて欲しい手前、話さないと離してくれなさそうなクロスに仕方無く説明する。
「不正解雇です。隊長は辞めさせられないから僕への当て付けです」
言葉を紡ぐ度に声音が下がった。
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