告白

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「お前が好きだ」 表情とか状況とかは何も思い出せないのに、 声だけは耳の中で木霊していて。 ■告白■ 『お前は気に喰わない』 廊下、出会い頭にそう言われた。 ああそう。私もですよと笑ってやったら、苦虫を噛み潰したような顔。 『でも、好きだ』 そうして真顔で続けられた言葉は、そんなもので。 怪訝な顔をすれば、想定済みとばかりに表情を崩さずに、凜、として。 『信長様の方がずっっっと大好きだけど、』 『なんでかわかんないんだけど、』 (そう、あの日もこんな晴天でした…) 霞んだ視界、赤く染まった空に手を伸ばす。違う、伸ばそうとした。 動かそうとした右腕は僅かにだけ上がって力無く地に落ちた。 彼の声が聞こえる。 耳の中で木霊する。 (なんとも、あっけない) これが走馬灯なのならば、信長公や帰蝶が出て来てもおかしくはないだろうに。聞こえるのはあの幼い声ばかりで。 答えていない。 応えていない。 そうですか。そう言って笑みを浮かべて礼を告げれば、泣きそうなのをぐっと堪える彼の顔。それを無視して彼を通り過ぎ、歩き去ったあの日。 (彼は、泣いたのでしょうか) いや、きっと泣いていないだろう。 彼は強い。あのまま堪えて、堪えて、そうして次の日また私に笑いかけたのだろう。 ………それは、あの時の私には眩し過ぎて。 「光秀!!!」 また、彼の声が聞こえた。 「なん、で、お前、」 珍しい、震えた声。 貴方こそ、なんでいるんですか。疑問は音にならなかった。そういえば、辺りには敵も、味方すら一人として、………いない?もう、わからない。 「死ぬなよ、光秀。なあ、」 腕が動かされる。手を握られている、らしい。感覚は当に消えていた。 うっすらと目を開けば、ぼろぼろと玉のような涙を流す、彼の姿。ああ、その顔笑えますよ。笑みを浮かべれば、何笑ってんだよと怒鳴られた。 ああ、蘭丸。 「みつ、ひで」 直ぐに答えを差し上げられなくてすみませんでした。 私には貴方と向き合う自信がありませんでした。 貴方の純粋な心を汚してしまうだろう事に堪えられませんでした。 貴方は若い。いつか飽きられるだろう事が何よりも怖かったのです。 >>
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