ハジマリ

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「どした陽輝? ずーっと空を見上げっぱなしで」 窓際の後ろから二番目という、大体の学生にとっては絶好のポジションでメランコリーな気分に浸っていたところに横やりが入る。 「何だよ石堂、別にいいだろ?」 「いやなに、助けてやろうとしたんだけどなぁ」 何やらバツが悪そうな様子を見せる石堂。 いつも通り変だが、いったい何なんだコイツは? 「なあ南、授業の最初っから空を見てるが空になんか浮かんでるのか?天空の城でも見つけたか?」 「うおっ!」 ドスのきいた声に思わず立ち上がる。 その声の主は、国語科の森本教諭(42)妻子持ち。通称……組長。 ま、組長ってのは見た目だけの話なんだけども、初見の人は誤解すんじゃないかと思う。 「あ」 つい、まぬけた声がでた。 時すでに遅し。 どうやらボーッとしている間に現代文の授業が始まっていたらしい。 「とりあえずそのまま立ってろ」 「あ、はい。すんません」 教室中からクスクスと押し殺した笑い声が聞こえてきた。 「ざまぁ」 石堂が俺にだけ聞こえる声で言ってくる。 ……こういった羞恥プレイはお前の専売特許だろうが。 敢えて声には出さずに目で石堂に訴える。 なぜなら── 「なんだ? 石堂、お前も立つか?」 「のわっ!?」 組長は地獄耳だからだ。 「ざまぁみろ」 と、薄笑いを浮かべながら言い返してやった。 俺は既に立っているし、失うものなど何もない! と思ったが、組長のヘルイヤーは俺の今の台詞を捉えていたのは想定内。しかし時間延長は予想外。 結局この授業中、俺と石堂は立たされっぱなしだった。 人生初だぞ、授業中に怒られて立たされるなんて…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ──そしてあっという間に放課後。 あの時みたいな出会いを期待したんだがなあ…… 転校生や臨時の先生も現れたワケじゃなし。 やっぱり予感は予感だけで終わるのかねぇ? そんなことを考えつつも、バイト先では何かあるかもしれないと、少しの期待を寄せて学校を出た。
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