ハジマリ

3/13
前へ
/580ページ
次へ
夜十一時までのバイトを終え、帰り仕度を済ませてさあ帰るぞ。 というところで後ろから声がかけられる。 「お疲れハルちゃん。ど~したの今日はぁ? 随分とお客さんを気にしてたみたいだけどぉ?」 独特の間延びしたゆったりボイスに振り向くと、バイト先のコンビニの店長、茜さんだ。 「ああ、今日みたいな日にはちょっとした思い入れがあるんですよ」 「なになに? どんな思い入れがあるのぉ? お姉さん気になっちゃうな~」 ニコニコと笑顔で尋ねてくる茜さん。 こんなことを言ってはいるが、茜さんは余計な詮索はしない人だ。 いつも面白半分……いや、九割で冗談を言ってくる。 ただ、気づいた時には誘導尋問になってたりするのがネックだが。 でも最近では大体察知できるようになったんだけどな。 何故かって? そりゃ一年以上もバイトやってりゃ嫌でも分かるもんじゃない? 「あっはっは。秘密ですよ」 少しだけ遠い目をしつつそう答えて帰路につく。 どうやら淡い期待はとうとう届かなかったみたいだ。 「はぁ~あ、ただいまー……あ?」 ため息つきつつ家の門をくぐると、庭の雰囲気がどこかいつもと違う気がした。
/580ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12080人が本棚に入れています
本棚に追加