笠と餡蜜

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いつもの甘味どころ、 いつものあまい餡蜜。 まぶたが重くなるほど代わり映えのしない日常は、これでも仕事をさぼって手に入れたもの。 口寂しいと、いつの間にか癖になった甘味はまるで麻薬。 廻る輪廻のように繰り返しの日々。 でも今日は、少し違った。 私は隣に座る奇妙な男をチラリと盗み見てそう思う。 黒い着流しに、私と同じ大盛の餡蜜… と、ここまでは普通。 この際、甘味どころに男が一人で来ているのは置いといて。 問題は、笠を被ったまま、脱ごうとしないところだ。 顔がすっぽりと隠れる深編み笠をかぶり、机に置かれた餡蜜と向き合ったままピクリとも動かない。 組まれた細い腕が、どこか風格を感じさせて。 また、どこか思い悩むようにも見えた。 木造の小さな建物 赤いのれんの奥で、私は興味津々で奴を観察する。
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