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目の前の餡蜜と男がにらみ合うこと数分。
深編み笠の中からゴクリという生つばを飲む音が聴こえた辺りから推測すると、食べたくないと言うわけでは無さそうだ。
何を我慢しているのだろう?
早く食べればいいのに。
全く持って奇妙な男だ。
横目で彼を見ながらも、私は餡蜜を口に運んだ。
甘い味が口を満たした。私の顔は自然とほころぶ。
その様子に自分も堪えられなくなったのか、男はついに笠を取ろうとする
ーーが、迷っているのか、手を止めてしまった。
顔を見せられない。
ということは男はお尋ね者なのでしょうか?
もしそうでしたら私が殺さないといけませんね。
めんどくさぁ。
ここでも仕事か、と傍らに置いてある刀を掴む。
鍔(ツバ)を少し上げて見せた煌めく刀身に写るのは笠にかけた男の手。
それは、女のように白く小さな手で、その風貌にはあまり似つかわしくなかった。
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