1・破瓜の封印

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家屋敷の周囲は林に囲まれていて、遠くカラスの鳴き声が聞こえる他は静かだった。 今、ここに人はいない──十分だ。 家の玄関へ足を向ける。 がしかし、引き戸の大きな南京錠に気付き、裏手に回る。 勝手口の小さなドアには、鍵がかかっていなかった。 きしむ音とともに開いたドアから、かび臭く生暖かい空気が流れ出る。 一瞬顔を歪めたものの、その空気を外にやり過ごし、中に入る。 廊下の途中にある階段を上がり、二階の奥の部屋に入った。 畳の上に少女を横たえ、窓を開け放つ。 足早な夕日は西の地へ消えたのだろう。 橙から藍に変わる空に、星が出始めていた。 深く息を吐いて、少女の方を振り返る。 少女の体は、薄暗がりの中で白く浮かんで見えた。 見つめれば見つめるほど、自分の足下が不確かに揺れて感じる。 『いいのか? この女の存在は、お前の存在を呑み込んでしまうぞ?』 全身に寒気が走った。 穏やかな風が窓から入り、部屋にこもっていた空気を冷やしていく。 夜の闇が、部屋の奥からじわりじわりと押し寄せてくる。 されどそれは、少女が眠る、白く四角い空間を侵すことはなかった。 そう──空では月が、白い光を放っている。
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