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日和は、いつもそうだ。
いつもはっきりとした答えをださずに──出そうとせずに、
「自分でもどうしてだかわからない」
と言って、ただびくびくと英知を見る。
「いっつも、だな」
口の中でつぶやく。
日和はいつも何かに怯えている──そう思えてならなかった。
重い空気。
英知も日和も、過ぎていく時間が、この空気を消してくれるのを待っていた。
〇 〇 〇
英知の後を追うように歩き、日和は後悔をしていた。
(また、えいちゃんを怒らせちゃった)
胸の奥が痛い。
左手で胸元を押さえ、わずかに苦悶の表情を浮かべる。
──五分ほどで市道から農道に入り、遠く横に伸びる林に目を留めて、日和は表情を緩めた。
「見えてきたね」
思いが声になる。
林の右手奥、木々の合間に赤い屋根がわずかに見えた。
林の向こうに建っていて、かつ木々の緑があるので、二人の家は見えづらい。
「あぁ、そうだな。
ったくよぉ、結局歩きで帰ってきちまったじゃん。バカおやじ」
英知が不機嫌そうに息を吐いて言った。
だが、その口調に刺々しさはない。
本心ではないとわかっているから、日和は口元に笑みを浮かべてうなずいた。
「さぁてと、もうちょっとだな」
「うん……あれ?」
ふと、その白い影に気付き、日和は眉根を寄せると立ち止まった。
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