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「うん」
意地悪っぽく笑う英知に、日和がうなずいた、その時だった。
家の辺り──林の向こうで、赤い光が輝いた。
次の瞬間、それは空に走り、光と白い鳥とが重なる。
ギャッ
短く鋭い声が、暖かな空気を凍てつかせて響く。
鳥は、重力のままに落ちて、林の向こうに見えなくなった。
日和は絶句した。
(今のは? 何が起こったの?)
微動だにできず、ただじっと、すでに何もない空を見つめる。
考えれば考えるほど、今見たものが現実だったのかどうか、わからなくなった。
「ひー……」
ビクンと体を揺らして、英知を見る。
「お前も、見たんだな?」
その一言で、今見たものが脳裏に蘇る。
「ねぇ、えいちゃん、今のはなに?」
英知は小さく首を横に振った。
「わからん。けど、なんかヤな予感がする」
英知はゆっくり家の方を振り返った。
「嫌なって……」
「ひー、お前はここにいろ」
言うなり英知が走り出す。
「えっ、えいちゃん、待って!」
後を追って走り出した日和を、英知は怖い顔で振り返った。
「お前は来るな!」
「だって……」
「来ない方がいい。オレが様子を見て来るから、ここにいろ」
ドクンと日和の鼓動が鳴った。
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