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飛んでいた本が床に降る。
だが本が当たっても、英知は、動かなかった。
「フン。まだ腹の虫が納まらねぇな」
少年が再び手をかざす。
「やめて!」
ピクンと手を止め、少年がゆっくり日和を見る。
「もう、いいでしょう?」
(さむい……)
声が震える。
それは、少年に対する恐怖からではない。
「どうして、こんなことをするの? どうしてみんなを──」
その先にある言葉が、怖いから。
「殺すのか、って?」
日和がビクンと体を震わせるのを見て、少年は口端を吊り上げた。
「簡単なことさ」
少年は日和のそばに来ると、手首を掴んで後ろの壁へ押し付けた。
そして、耳元でささやく。
「楽しいからさ。恐怖に震える声、命乞いする姿。飛び散る鮮やかな血、悲鳴と苦痛で歪む顔。──ゾクゾクする」
少年は陶酔するように目を細めた。
ドクンッ……
心臓が大きく震え、凍てつき止まった気がした。
(さむい……)
「そんな──」
「そんな? そんな、なんだ。ひどいことを、とでも抜かすのか?」
少年の顔に怒りの感情が出る。
「他人の非には容赦ないくせに、自分の非には言い訳を並べ立てて悪くないとうそぶく。そんな薄っぺらいお前らが、俺の何を責められる?」
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