29人が本棚に入れています
本棚に追加
(さむい……サムイ……)
少年の眼は、真っ直ぐ日和を捉えている。
赤黒い瞳の中で、日和は眉をひそめていた。
(この人の怒りは何? 私が何を、言えるの?
私に、何が)
大きく息を吐き、目を伏せる。
「そう……私も、殺すの?」
問いに、少年はただ鼻で笑って応える。
「なら、一思いにやって」
「あぁ?」
いぶかる声と共に、掴む手に力が入る。
「命乞いも逃げる気もナシかよ」
「だって、みんな、いなくなってしまったもの。独りでいるのは、つらいだけだから」
顔を上げる。
「だから、お願い。
私を、殺して」
心からの、願い。
少年が急に手を放し、日和の腕は重力のままにだらりと落ちた。
日和は、笑みを浮かべ。
そして、静かに、目を閉じた。
〇 〇 〇
静寂が、冷たく肌をざわつかせる。
少女の目から流れる涙を見た途端、体に電気が走った。
「殺せ、だと?」
思わず後退り、拳を握る。
「お前は、死を望むのか」
少女は目を閉じたまま小さくうなずいた。
張り詰めた空気の中、少女からかすかな振動が伝わってくる。
それはなだらかで優しく、朝もやの中で眠る草原のやわらかさに似ていた。
「お前は、死ぬことが怖くないのか?」
問いに、しかし少女は答えない。
「どうして、俺を前にして穏やかでいられる? 俺は──」
最初のコメントを投稿しよう!