1・破瓜の封印

26/36
前へ
/175ページ
次へ
(さむい……サムイ……) 少年の眼は、真っ直ぐ日和を捉えている。 赤黒い瞳の中で、日和は眉をひそめていた。 (この人の怒りは何? 私が何を、言えるの?  私に、何が) 大きく息を吐き、目を伏せる。 「そう……私も、殺すの?」 問いに、少年はただ鼻で笑って応える。 「なら、一思いにやって」 「あぁ?」 いぶかる声と共に、掴む手に力が入る。 「命乞いも逃げる気もナシかよ」 「だって、みんな、いなくなってしまったもの。独りでいるのは、つらいだけだから」 顔を上げる。 「だから、お願い。 私を、殺して」 心からの、願い。 少年が急に手を放し、日和の腕は重力のままにだらりと落ちた。 日和は、笑みを浮かべ。 そして、静かに、目を閉じた。   〇   〇   〇 静寂が、冷たく肌をざわつかせる。 少女の目から流れる涙を見た途端、体に電気が走った。 「殺せ、だと?」 思わず後退り、拳を握る。 「お前は、死を望むのか」 少女は目を閉じたまま小さくうなずいた。 張り詰めた空気の中、少女からかすかな振動が伝わってくる。 それはなだらかで優しく、朝もやの中で眠る草原のやわらかさに似ていた。 「お前は、死ぬことが怖くないのか?」 問いに、しかし少女は答えない。 「どうして、俺を前にして穏やかでいられる? 俺は──」
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加