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一番に目を覚ました小鳥が、空気を温めながら梢で羽ばたく。
地面の上では春の花がつぼみを持ち上げ、日の光が射すのを待っている。
大地に点在する民家からはニワトリの声と共に動き出す気配がし、緑の萌える牧草地には草を食む牛の姿も見えていた。
のどかだった。
いつも通りの、朝だった。
何の変哲もない平和な一日がまた始まると、誰もが思い願っていた。
だが、それは叶わない。
ほんのわずかな鳥や獣たちだけが、その異変に気付いていた。
この大地の、小さな点でしかないその場所の、怖気立つ空気に。
「クックックッ……」
冷たく嗤う声が、薄闇の中で漏れる。
辺りは、冷たく静まり返っていた。
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