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目を見開く。
「俺が、か?」
『何故だ。何故安堵した!』
「俺が、殺さなかったことに安堵している、だと!?」
『何を考えている!』
「何も……何も考えてなどいない。ただ、」
『ただ?』
「ただ──」
『もっと、いたぶって殺したいのか? 命乞いをさせたいのか?』
「…………」
なんだろう。
この、言い知れぬ不安は。
『早く殺せ。でなければ、またお前は自由を失うぞ? 邪魔なものは排除しろ。それとも、再び、あの暗闇に戻りたいか?』
体を取り巻く空気が冷え、スッと気持ちが楽になる。
自然と、口元に笑みが浮かぶ。
少女へと手を伸ばす。
「人間など、もろいものだ」
禍々しい手に血管が浮き上がる。
「特に女の細い首など、潰すも折るも、造作ない」
だが。
少女の、ほんのりとやわらかく温かな肌に触れた途端、得体の知れない何かに体を押さえつけられて動けなくなった。
「!!?」
指先から全身に電気が走り、心までもがしびれて思考が鈍る。
力が、入らない。
呼吸すら、難しいほどに。
『何をしている』
「なにも」
『何をためらう』
「ためらう?」
『何を、恐れている?』
「恐れてなど、いない」
怖いものなどない。
ただ……
『お前は、なんだ?』
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