29人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は──」
両手が震える。
「俺を、誰だと思っている?」
問いかけに、しかし気を失ったままの少女が答えるはずもなく。
両手を自分に引き戻す。
ゆっくり後ろに下がり、ようやく自分の呼吸を取り戻した。
汗がどっと噴き出す体は、小刻みに震えていた。
口の中が、渇く。
「畜生!」
硬く握った拳で壁板を破る。
それでも晴れないこの気持ちは、なんだ?
「なんなんだ、一体!」
ギロリと少女を見やり、唇を噛む。
「お前は、一体!」
『どうしたというのだ? たかだか小娘なんぞに恐れをなすとは』
「恐れ──? いや、違う。恐れることなどあるものか。こんな小娘に……」
見入れば見入るほど、少女の顔は穏やかに優しく見える。
そう感じる自分に、息苦しさを覚える。
『では、なんだ? お前を狂わせているものは』
「お前の、せいだ」
つぶやくと、体が大きく震えた。
そして、少女を抱き上げる。
その体は、驚くほど軽い。
「くそっ!」
腕から全身に電気が走る。
それを払うように頭を激しく振り、背面からカーテン越しの窓に突っ込んだ。
ガラスの割れる音が、心地よく感じた。
冷え始めた空気に、キラキラと夕日色に染まって散る破片も、綺麗だと思った。
最初のコメントを投稿しよう!