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破片から少女をかばい、窓の縁を蹴って跳ぶ。
体を翻し、家と納屋の間にあるトラクターのアームの上に立って振り返る。
太陽は、林の向こうに落ちようとしていた。
ピクンと視線を移す。
ここからは見えないが、重そうに走る車の音に眉根を寄せ、地面に降りた。
辺りを一瞥し、納屋の脇を走り抜けて畑を横切る。
小さな川を飛び越え、林の中へ。
『どうするつもりだ?』
いぶかる声を無視して、ヤチダモや白樺、それに松の混じる林の中を風のように走る。
足下に生い茂る熊笹のガサガサという音が、やけに大きく感じた。
『何を考えている?』
「うるさい」
短い林の切れ目で、体を低くし足を止める。
目だけを動かし、注意深く辺りを見渡し、あらゆる生き物の気配を探る。
「……よし」
小さくつぶやき、狭い農道を渡る。
夕日の届かなくなりつつある木々の間を、ひたすら走り続ける。
──どれくらい走っただろうか。
熊笹も木々もない、広い場所に出た。
歩調を緩め、目の前のものを見つめる。
「ここは……?」
民家が、あった。
だが、人の臭いも気配もない。
手前にある小さな畑には、雑草が生えていた。
そばに立つ木造の納屋は、崩れるのも時間の問題と思えるくらい古い。
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